学術会員からのコメント

学術会員の方から頂いたコメントをご紹介いたします。

■ 松本 吉弘(まつもと よしひろ)氏

   財団法人 京都高度技術研究所

【プロフィール】

東 芝・理事、京都大学・大学院工学研究科/工学部情報工学科・教授、(財)京都高度技術研究所 副理事長兼所長、シュツットガルト大学客員教授、大阪工業大学教授、武蔵工業大学教授などを経て、現職。工学博士、IEEE Life Fellow。1970年代から1980年代にかけ、東芝、ABB、シーメンスで大規模ソフトウェア工場の立ち上げを行い、ミシガン大学、カーネギーメロ ン大学、カリフォルニア大学バークレー校などでソフトウェア工場に関する特別講義を担当した。全国発明表彰、科学技術長官賞など受賞。

【コメント】

「プロシューマの時代」

1972 年に、Marshall McLuhan およびBarrington Nevittが、「Take Today」とう著書によって、生産的消費者(プロシューマ・ prosumer)という概念を提案し、アルビン・トフラーが、著書「第三の波」や「富の未来」のなかで、これを引用した論説を行っていることはよく知ら れています。ソフトウェアの世界でも、Linux、Wikipediaなどは、プロシューマに近い人たちによって、ここまで推進されてきたと考えられま す。今後も、これに類した形で推進されるFree/Libre Open Source Software (FLOSS)は、増えてくると考えられます。

注文によって開発・保守されるアプリケーション・ソフトウェアにおいても、前後関係 (context)、問題、ニーズを直接肌で感じている顧客、またはユーザと称される人たちが、経営に直接関わるクリティカルな部分ソフトウェアを、自分 たちで責任をもって、容易に、かつアジャイルに開発・保守できれば、より大きな事業利益の拡大が期待できると考えられます。

このようなことを実現 するためには、顧客・ユーザ・製作者の組織的垣根を取り払った新しいコラボレーション形態の構築が必要であると考えられます。本協議会でも、ソフトウェ ア・プロシューマのあり方、その組織的育成、コラボレーション、それに対する支援環境のあり方にも目を向けていただきたく考えています。

■ 黒岩 惠(くろいわ さとし)氏

   名古屋工業大学 客員教授 (トヨタ社友)

【プロフィール】

1969 年九州大学大学院電気工学修了、トヨタ自動車株式会社入社。生産技術開発、LA、PA、FAに関わる大規模な情報システム構築に従事し、80年代後半から トヨタ生産方式の情報化を推進。90年代中頃よりCALS、IMS、オープンFAなど通産プロジェクトに参画。2000年より、電子商取引推進協議会や日 本経団連などで団体運営やIT/EC関連の委員会活動に従事。20003年12月トヨタ自動車株式会社を退社。現在、名工大、九工大の客員教授、「ものづ くりAPS推進機構」、DEE21など東京と名古屋の「ものづくりとIT」に関わる非営利団体代表。愛知大、南山大講師、名古屋大客員研究員、情報学会東 海支部長、理事を経験。

【コメント】

USの製造業は、80年代初にUSに進出したトヨタからトヨタ生産方式(TPS)を学び、 リーン(筋肉質な)方式と命名。製造業は、過度に分業化したフォード方式から リーン方式に脱皮し、ソフト開発分野でもTPSを学び、XPなどいくつかのリーン/ アジャイル方法論を体系化した。アジャイルプロセス協議会は、旧態然とした 日本のソフトウェア開発プロセスにイノベーションの先導役として評価。トヨタで TPSとソフトづくりに長年関わってきた立場から協議会の活動にエールを送る。

協議会の皆さんにはUSのアジャイル方式を超え、日本のソフトづくり再生に向けた 開発方法論の確立と普及に期待したい。

■ 阿部 一晴(あべ いっせい)氏

   京都光華女子大学人間科学部メディア情報専攻 准教授

【プロフィール】

1984年NECソフトウェア関西(現:NECシステムテクノロジー(株))入社

NEC海外向け量販製品の販売促進、PC・OSV・小型汎用機用業務パッケージ(財務・給与)開発、流通・サービス業向け個別システム開発等を担当

1997 年~1998年 NEC Systems Laboratory、Inc.(米国カリフォルニア州)駐在以後インターネット関連ビジネスの拡販・コンサルティング担当のマネージャーを経て2001 年3月退職。2001年4月より現職。専門領域は「System Engineering」・「Administration and Business Management」企業経験を活かしたより実践的なアプローチで教育・研究活動を行っている。自ら教壇に立つ傍ら、兵庫県立大学大学院応用情報科学研 究科 中本幸一教授に師事し、自動車制御を中心とした組込系ソフトウェア開発プロセスの研究を進めており、関連企業との共同研究等にも積極的に参画してい る。

情報処理学会、情報通信学会、経営情報学会、教育システム情報学会、情報システム学会、プロジェクトマネジメント学会会員

経済産業省情報処理技術者 プロジェクトマネージャ・上級システムアドミニストレータ

【コメント】

私 自身も経験したソフトウェア開発、特に実際にコードを書き、動くプログラムを作成するプログラマというのは、大変クリエイティブで自分なりの様々な工夫が 活かせる面白い仕事だと思っています。ところが世間では、「新3K(きつい・厳しい・帰れない 給料安いが含まれることも)」などと呼ばれたり、「デス マーチ」から逃れられないと思われたり、魅力的な職業とはほど遠い評価を受けている面もあります。実際には、楽しみながら新しいことにどんどんチャレンジ されている現役プログラマの方も多いのでしょうが、ある程度の規模以上の組織に属するソフトウェア技術者のみなさんには、文字どおり「3K」状態に陥って いる方が多い様な気がします。(これは私の偏見かも知れませんが)

情報処理産業や情報サービス産業と呼ばれる業界は、他の長い歴史がある産業に比 べ未成熟な面があるのは否めません。ただ、歴史が浅いとは言え、ソフトウェア工学・プロジェクトマネージメント・標準化などにおいて、技術面・管理面・組 織面など多くの改善アプローチもなされています。しかし、現実にはすべてがうまくいっている訳ではありません。ソフトウェアの品質問題は後を絶たず、その 社会への影響は拡大するばかりです。

問題点の一つは「ソフトウェア(プログラム)はその作成に携わる『人』に依存することを完全に排除することは できない」ということではないかと個人的に思っています。以前に比べ、自動化は進んだとは言え、最終的にプログラムのコーディングもテストも、生身の人間 が手作業でおこなうということをまったくゼロにはできません。ソフトウェアから属人性を排除する動きとして、古くはCASE、最近ならMDAといったアプ ローチも進められていますが、コンピュータアーキテクチャが現在とはまったく異なるものにでもならなければ、『人』が関与する部分を100%無くしてしま うことは不可能だと思いますし、もしそれが可能になってしまったら、ソフトウェア技術者という仕事はまったく魅力の無いものになってしまうでしょう。

こういった視点から、ソフトウェアをその開発に携わる『人』を中心に捉え、すべてのソフトウェア技術者が幸せになり、そしてこの仕事が誰にとっても魅力的で憧れの職業となっていくことに少しでも貢献するために何が出来るのか考えていきたいと思っています。